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本番の失敗リスクを全てたたきつぶすための準備論

こんにちは。24時間走競技・元世界チャンピオンの井上真悟です

より多くの方に24時間走者がおこなっている準備の本質を知っていただき、ご自身のランニングライフに応用してもらうことを目的にここまでの記事を書いてきましたが、

最後に投稿する今回の記事は、本気で達成したい目標のあるランナー以外には、響かない内容になっているかもしれません。

ウルトラマラソンは、どれほど準備で健康を害さないためのポイントをおさえられたとしても、過酷な本番には健康レベルを逸脱してしまう冒険です。

高い目標を達成することだけが素晴らしいとは私は思いません。

十人十色、自分のためのランニングライフをおくってゆきましょうね。

その中で、私のプロアスリートとしての視点、ノウハウ、見解が少しでもお役に立ちましたら幸いです。

マラソンは、スタートラインに立つまでですでに8割が終わってい

目標を本気で達成する覚悟があるのなら、トレーニング不足は論外です。

科学的見地から逆算して考えるウルトラトレーニングでも書いたとおりの①目標達成に必要なVDOT②必要な最低走り込み量をまずはどうクリアしてゆくか?の準備戦の内容こそがマラソンの本質です。その点は、フルもウルトラも変わりません。

ただし、本気で高い成果を狙うならば上記のトレーニング課題をこなすには、必ず故障リスクが存在します。

前回の投稿でも記載したとおり、実際に私も高い目標を達成するためにトレーニングの初期、ハイリスクハイリターンの練習方法を選び、アキレス腱炎を発症させてしまいました。

しかしそのあとは自分に欠けていた勉強と行動を怠らず、最終的にレースでは納得のゆく成果を残せたと思っています。

痛みや痺れは、カラダからのサインです。
自分のカラダは親からの貰いものにすぎませんので、サインを読みとる努力をしながら大切に使ってゆきましょう。

100あるチカラを活かし切るために、リスクマネジメントを

私はマラソンの終盤戦に差しかかるまで、自分に対して「がんばれ」という言葉を絶対に投げかけないようしています。

と、いうよりも「がんばれ」では勝てないのです。
むしろマラソンで成果を出すために最も重要なことは、終盤戦のために最低限の本質をおさえたリスク管理&対処をしつつ、あとは徹底して手をぬくことだと思っています。

終盤戦とは、私の定義ではレース本番のラスト30%、つまり
フルなら約30km地点〜ゴール
100kmなら約70km地点〜ゴール
24時間走なら約17時間〜 ゴールまでです。

ならば、そこに至るまでの前半戦とは?

そこの認識で成果は圧倒的に異なりますが、

マラソンの前半戦とは、本番のスタート地点から終盤戦まで…などではなく、

準備を意識しはじめたその日から本番までの日数 +本番 走る最初の70%です。

その長い準備戦でモチベーションを柔軟に保ち、最善のリスクマネジメントをするためのテクニックこそマラソン攻略には不可欠だと思っています。

それらの詳細は、すでにサロマ湖ウルトラマラソン大会公式コーチ期間中にお伝えしつづけてきましたので、下記のリンク記事を参照ください。

ウルトラマラソン攻略の本質論①

ウルトラマラソン攻略の本質論②

ウルトラマラソン攻略の本質論③

レース中のあらゆる対処は「カーディアックドリフト」を未然に防ぐため

24時間も走りつづける過酷な競技であれば、普通のマラソン大会以上に、

などの様々なリスクが存在します。各リスク対処の考え方は、↑のリスクそれぞれに、私のノウハウを記載した記事や実際に使用している製品のURLを添付しましたので、参照いただければと思いますが、

そもそも、なぜこれらのリスクを対処する必要があるか?

カーディアックドリフトを極力おこさず、身体能力を最大限発揮できるようにするため

だと、私は考えています。

これまでに砂漠や雪上で死のリスクさえあるウルトラマラソンも経験したからこそ言えるのですが、

たとえ熱中症や低体温症になろうが、靴ズレや他の様々な故障による痛みを抱えようが、

覚悟して臨めば、ある程度まで人は走りつづけることは可能です。

ただし、絶対にパフォーマンスは落ちます。
そして、環境と運次第では命も落とし、間違いなく家族に迷惑もかけます。
たとえそうでなくても、競技寿命は縮まります。

なので、勝負としても、レースとしても自分が生き残るためには最善のパフォーマンスを発揮しつづける工夫が必要なのです。

「カーディアックドリフト」とは、
同じペースを維持しているにも関わらず時間経過とともに心拍数が少しずつ上昇してゆく現象

のことですが、なぜ人間の身体にそんなことが起こってゆくのか?それは、

  • 気温の影響による深部体温の変化
  • 発汗の影響による体内の水分保有量の変化
  • 疲労物質の蓄積
  • 緊張や不安による脳波の乱れ

などが、原因と考えられています。

レース中に正しい対処を心がければ間違いなくカーディアックドリフトは防げます

そして、科学的トレーニングの投稿でお伝えした「最終追い込み期の走り込み課題」が、なぜ必要なのか?の理由もココにありますが

「最終追い込み期の走り込み課題」だけは、スポーツサイエンスを活用したトレーニングではなく本番を想定したシュミレーションのです。

大会本番のために用意した様々なサプリ、補給物、胃腸薬、テーピング、シューズ、ウェアなどと、鍛えあげた自分のカラダの能力で、本当にカーディアックドリフトをおこさず大会本番と同じだけの距離を走りきることができるのか?

その実証を終えておくことそのものも、大会本番で緊張や不安による脳波の乱れからカーディアックドリフトを起こさないことにつながります。

※改めて、科学的見地から逆算して考えるウルトラトレーニングで紹介した私の最終追い込み期におこなったキロ4分20~30ペースでの60㎞走 × 3日間連続データを見ていただくとどの練習も極端に心拍数が上がっていないことが分かると思います。

このセット練自体がトレーニング効果を狙うこと以上に、シュミレーションとしての実証を目的としていましたので、実際にはレース本番と同じ補給食、サプリなどを使用しています。

(あくまで「練習」としてのデータですので、トイレに立ち寄った際は時計を止めています)

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なぜ、大会会場での井上真悟は、怖いのか?

今年、8年ぶりに神宮外苑24時間走を参加するまで、国内ではアスリートとしての勝負レースを極力走らないようにしてきましたが

今回、初めて私のレースを観た方々は正直なところ「こいつ、なんか怖ぇな」って、感じたことと思います。

スタート前から一言も話さず、挨拶も無視。
目も合わせないなど無礼千万な態度をとってしまい、そのことは本当に申し訳なかったと思っていますが、ただアレにはちゃんと理由があります。

朝、スタート会場に訪れ、レースを走りだし、およそ8時間を超えるころまで、

うまく集中できていれば12時間を超えるころまで、

変な言い方をしますが、

私は、実は寝てるだけなのです。

レース序盤は帽子で顔を隠しているため分からないかもしれませんが、実際ほとんど目もつぶっています。

これは、私が中学生の頃から愛読してきた漫画「マラソンマン(講談社)」で主人公のマラソンランナーがレース中におこなっていたテクニックですが、精神を集中させ、脳を睡眠におちる一歩手前の状態にしておくことで脳波を限りなくシータに近いアルファ状態に保つ「座禅」の応用です。

実際にマラソン大会の中継で目をつむっているトップランナーは見たことがありませんが、コースの単調な24時間走であれば、このテクニックは相当 効果が実感できます。

だから本当は、本番のスタート前は(せっかく寝てるのに起こさないでよ〜)って思ってるだけなんですよ。

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なら、なぜ大会前から井上真悟は、怖いのか?

と、書いても、今大会を共にした参加選手は絶対に信じないはずです。

「いやいや、井上やっぱり怖いじゃん!だって、レース前のフェイスブック投稿からして、殺気立っていたじゃないか!」と。

特に今回のレースへ向けた約1年間、私は意識するライバル選手たちとは一切馴れあわず、極力 接触する機会もつくらず、時には厳しい言葉も投げかけてきました

競技が盛り上がるように、もっと高いレベルで競いあいたい…と、いう思いもあってのことですが、

レース前から殺気立っている(ように感じられている)一番の理由はアドレナリンこそが睡魔を抑え、カーディアックドリフトをおこさない最も有効な手段だと知っているからです。

毒のある言いかたになってしまいますが、
「お互い自分に負けないようにがんばろうね!」
なんて、眠たいことをレース前から言いあっているようでは、レースが14、15時間と経過してからの深夜、本当に睡魔に屈して眠気に耐えられなくなってしまいます。

「自分」という目で追えない対象が相手では、レース中に脳を活性化できないのです。
本当に苦しいときこそ、目視できる「誰か」の背中を強烈に意識して追い求めなければ、弱い自分に克つことなどできません。

※当時はカーディアックドリフトという概念を認識こそしていませんでしたが、2010年フランス世界選手権でスコット・ジュレク選手と競いあったときの自分が、まさに脳の特性にあわせて3つの人格を使い分けたレース運びをできていたと思っています。当時の自分がレース中に考えていた視点もぜひ参照ください↓

スコット・ジュレク選手との24時間走世界大会

井上真悟は、本当に怖いのか?

そんなことないよ。レース前はコボちゃんとかも読むし。

終わりに

長年、多くの日本人選手が世界の舞台で活躍し、海外から評価されているにもかかわらず、国内では「なんでそんな走っているのか?理解できない」と、ウルトラランナーは一部の人たちからは、ヘンタイ呼ばわり。
私は、そんな未だに価値が認められず、競技者たちの活躍が知られることの少ない状況に悔しさを感じています。

しかし一方で、根拠のない精神論による距離走のみで一時的な成果を出しているトップランナーすべてが模倣になるわけではないとは思っています。

精神論のみでの走り込みは、5年、10年というスパンでみれば確実に競技寿命を縮めます。

今ではまともに歩くことさえ困難になってしまった超ウルトラの選手たちを私は多く見てきました。軟骨は消耗品であり、腱や靭帯、内臓はそこまで強靭なわけではありません。

それらを自覚した上でお互いに知恵を駆使し、プライドや人生を賭けて闘うからこそ、この競技にはスリルとロマンがあると私は思っています。

今回、私がまとめたウルトラマラソンに対する3テーマの投稿は、あくまで私独自の見解に過ぎず、すべての点で腑におちない方もいらっしゃるかもしれませんが、

もし少しでも「24時間走者の考え方って意外とおもしろいな」と思っていただけたのなら、

私の前の世代の世界チャンピオン
関家良一さんが過去に台湾で出版された3冊の著書にも目をとおしてみると良いと思います。

ウルトラマラソン勝者の100日トレーニング

ウルトラマラソン(超馬)道

ウルトラマラソン僕らの時代

これらの本は、日本語版がkindleで簡単に入手可能です。
ウルトラマラソンに対する関家さんの考え方は懐が深く成熟。私とは異なります。
私の記事より、共感しやすい方も多いかもしれません。何より、関家さんは現時点での私よりも多くの実績を残してきたランナーです。そこに私以上の説得力もあると思います。

また、関家さんとも、私とも違う視点をもつ選手として、現世界チャンピオン・石川佳彦選手の存在もあげておきます。

24時間走という難しい競技をわずか2戦で世界タイトル獲得までたどり着いたことからも、彼が柔軟な考え方でトラブルに対処する能力が高いことは間違いなく、

また、彼自身 現役世界チャンピオンとして守りに入ることなく、要となる週末のポイント練習内容をフェイスブックでオープンにしています。それらをフォローしてみることは、みなさんの練習の中でも様々な気づきが得られるのではないかと思います。

何がウルトラマラソンの王道か?は、世界の頂点をめざす私たちウルトラランナーの今後を見ていただきながら、みなさんが決めてください。

長文の内容になってしまいましたが、ここまでを読んでいただきありがとうございました。


井上真悟プロフィール 1980年東京生まれ

26歳時、父の他界をきっかけに挑んだ通称「世界一過酷なウルトラマラソン」サハラ砂漠マラソンにて2年連続日本人1位となる。その後、ランニングコーチとして児童を対象にしたコーチング経験を積む傍ら、日本全国の児童養護施設へ走って訪れる活動を展開(2007~)出逢った全ての子供たちを喜ばせたいと思い、当時「20代では結果が出せない」と言われていた24時間走に絞った競技活動に打ち込む。2010年、伝説のウルトラランナーと呼ばれていたスコット・ジュレクとのレースを制し、20代初の同競技・世界タイトルを獲得。現在は、「2020年・金栗四三のアメリカ大陸5000km横断駅伝」の実現をめざし、精力的に活動中。

近日中・実施予定セミナー

12月1日(土)大阪開催GARMINランニングコーチ井上真悟の42.195㎞攻略クリニック

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