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カラダを壊さず成果を出す科学的トレーニングの応用

こんにちは。24時間走競技・元世界チャンピオンの井上真悟です。

前回の投稿では、これまで理論的に語られることのなかったウルトラマラソン攻略のためのトレーニング目安をスポーツサイエンスの観点から紐解いて説明しました。

今回の投稿では、なぜ井上真悟はアキレス腱炎で約3ヶ月間もまともに走れなかったのに、最終的に11月10日-11日の国内代表選考会を世界ランキング暫定6位の好成績で終えられたのか?の根本についてを整理してゆきます。

読者のみなさんがスポーツサイエンスを応用するヒントを得ていただくことを一番の目的に書きますが、この半年間の私の苦労ばなしと工夫エピソードも楽しんでいただければ幸いです。

アキレス腱炎発症の経緯

そもそもレースで勝つための理論値を算出した5月、私がめざすべき最高目標は、自身のもつロードアジア記録の273.708kmではありませんでした。

私よりVDOTの優れた100km元日本代表・外池快太郎選手のエントリーをすでに知っていたからです。計算上予想できる彼の24時間走のポテンシャルは287km。

これは原良和さんのもつ総合アジア記録に匹敵する数値です。

また、24時間走は走法や性格が記録に影響をうけやすい競技ですが、2年前から彼を知っている自分にとって彼は未経験ながら24時間走の適性が高いランナーだと感じていました。

その男を上回ることなく、仮に日本代表に選ばれたところで世界の舞台で通用しないことは分かりきっています。

そしてまだ半年近く時間の猶予があったなか、自分のとったトレーニング戦略は今年の東京マラソンで当時の日本新記録を更新した設楽悠太選手と同じく「レース本番でNIKE ヴェイパーフライ4%を使いこなせる状態に仕上げる」というものでした。

今回は、その過程での斜度8%起伏走に失敗し、マラソン歴16年目にして初のアキレス腱炎を発症させてしまいました。

現代医療の新しい治療手段を選択

アキレス腱の故障は、難治性が高く中途半端な静養しかしていなければ1年、2年と痛みを引きずるリスクのあるスポーツ障害です。

その時期に担当していたサロマ湖ウルトラマラソン企画公式コーチの都合上、大会本番の100kmこそ走らなければなりませんでしたが基本、アキレス腱に負担のかかる動作は軽度のジョギングもNG。

アキレス腱治療に実績のある整体と鍼治療でサロマこそ凌ぎましたが、その後はコーチ業として必要最低限走らなければならないとき以外は、極力ランニングは控えました。

トレーニングそのものは、後述する様々な練習方法の組み合わせで目標を見失うこともありませんでしたが、

いくらスポーツサイエンスを応用して身体能力を高めることができていたとしても、根本的なアキレス腱の痛みが治らなければ最終走り込み期のランニングがこなせず、大会本番での敗退が決定します。

いかに早急に自分を走れる状態に戻すか?

連日 情報を探しつづけ、7月中旬に見つけたのはオクノクリニック院長・奥野祐次先生の著者「長引く痛みの原因は、血管が9(ワニブックスPLUS新書)という書籍です。

「病的血管治療の第一人者である奥野さんの研究論拠は、ストレッチトレーナー時代の自分が理屈を断言はできないけれど○○なケアを心がければ長引く痛みが改善してゆく」とお客様に伝えていたことの根本を掘り下げるものでした。論文に説得力があったのです。

また、知人の医師からも奥野先生とは違う治療法ではあるけれど、この観点での治療は慢性期の疼痛やスポーツ障害に対する新しい医療として注目していると聞き、この新しい治療法をいま自分が受けてみることは今後のコーチ活動にも必ずプラスになると考え、手術を決めました。

ちょうど治療の時期、国際ウルトラランナーズ協会は私の目標とする2019年オーストリアでの世界選手権が開催中止となり他国での開催も未定と発表しましたが、だから治療を辞めようとは微塵も思いませんでした。

むしろ、もし他国での振替開催が決まったとき、最善の努力を怠って自分が日本代表に選ばれていなければ、自分は一生後悔するだろう、と。

そして、この一連の情勢もふまえて、自分はもう一度 世界の頂点へ返り咲ける器かどうかが今まさに試されているとも感じました。

手術そのものは3週間の安静期間を経て、徐々に効果を感じはじめ、9月上旬には30kmジョグまでなら痛みなく再開できるまでに回復してゆけました。

スポーツサイエンスを日常生活で応用するための下準備

そもそも、ジャックダニエルズ論の核心とは何か?といえば、

それはランナーの身体能力は

  1. 脂肪燃焼効率 (基礎代謝)
  2. グリコーゲン貯蔵量 (スタミナ)
  3. 乳酸耐性 (疲れにくさ)
  4. 最大酸素摂取量 (心肺機能)
  5. ランニングエコノミー (フォーム効率)

具体的な5つの能力で説明がつくということだと私は捉えています。そして①〜④の4種類の身体能力は、理論にあった負荷のトレーニング方法の反復向上させることができること

また、スポーツサイエンスを応用する上でコレが最も重要な点ですが①〜④の能力を向上させるためのトレーニング方法は、ランニング以外の有酸素運動でも構わないということです。

理屈では分かっていても「ほんとかよ!?」と疑い、レースへの不安から結局は痛みを抱えながらもランニングを選びたくなってしまう人は多いと思います。私もそうでした。

ただ、そんな私がこの理論の効果を信じられたのは、ある大学生のこんな論文を見つけたからでした。

この学生ランナー自身が、故障期にどれほどの不安を抱えながら、目標を諦めず成果につなげたかを想像することができたから、自分もスポーツサイエンスの根本を信じようと腹をくくれました

そして私が最初におこなったことは2ヶ所のスポーツクラブへ入会」したことです。

1つは、自宅から徒歩5でゆける6時〜深夜0時までならいつでも利用可能なスポーツクラブA。

もう1つは、自宅から電車またはバイクで20でゆける10時〜22時半まで利用可能室内プールのあるスポーツクラブBです。

クラブBにも、Aと同じトレーニング機材はあるのですが、こちらはあくまでプール利用のみの安いプランに留め、プール以外のトレーニングは徒歩5分のクラブAでおこないます。

これらの投資は、怠け、飽きやすい自分の性格をふまえてこそです。

故障発生した5月から治療効果の出始めた9月まで、私はお金で買った2つの環境を次のように使い倒しながら、秋のランニングへとつなげてゆきました

①乳酸耐性を向上!MAX30分間のガチ・エアロバイク地獄!

まず、結論を言いますが様々なトレーニングの中で最も成果に直結したのは、エアロバイクを利用した最大30分の全力こぎです。

と、いってもランニングの全力疾走のように本当に最大心拍の100%で30分間も有酸素運動をつづけることは、人間にはできませんので、あくまで合計走行距離が少しでも長い記録になることを狙った最大心拍70→90%の範囲での30分運動です。

そしてコレは、ランニングでのトレーニングに置き換えると6000m〜8000mのタイムトライアルに該当します。

そもそもアキレス腱の負担を考えると、足首に体重がかかるような動作自体が痛みを悪化させてしまうため、できる運動は限定されるのですが、30分までのエアロバイクなら、私のアキレス腱はもってくれました。

とは言っても、一回の練習メニューを終えたあとはバイクから崩れ落ちてジムの端っこでグッタリと倒れこむほどの地獄。

これだけの高負荷のトレーニングは、週に1回から2回が限度ですが、この16年間やってこなかった練習方法だったからこそ伸びしろも多く、また、自分が飽きないための工夫としてGARMIN の練習管理アプリ内のコネクションで毎回の練習記録を台湾の友人トライアスリートと競いあえるようにしました。

どんなにコンディションを整えても週に最大2回までしか出来ない練習だからこそ、まるで学生時代に100円玉一枚だけ握りしめてゲームセンターに通っていた頃のように集中してこのゲームにチャレンジすることができました。

毎回の自分の成長は数字でくっきりわかり、日常生活のスキマ時間約1時間未満で台湾の友人と競いあえるその仕組みがめちゃくちゃ楽しかったのです。

また今年の夏は記録的な猛暑でしたが、炎天下の屋外よりもジム内でのバイクトレの地獄と向き合ったほうが間違いなくトレーニング効率が良かったと思っています。

※実際のトレーニングデータ。トレーニング初期の7月2日は30分間17㎞が限界でしたが、、、

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↓ 2ヶ月間で計19回の反復により、9月8日には30分間18.06㎞(時速36.1㎞)まで漕げるよう成長。

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大会3日前の最終刺激入れでは、20分間12.16㎞(時速36.4㎞)漕げるまでの心肺機能乳酸耐性に仕上がりました。

 

②酸素のありがたみを知ったNo Brething スイム

そして、このバイクトレの疲労ぬきとしてたいへん効果の高かったアクティブレスト室内プールでの「息継ぎなし25mバタ足スイム」です。

水泳は、関節の負担なくカラダを鍛えられる有酸素運動としてリハビリ期の代表的な練習方法ですが、私はここにフリーダイバーの練習方法であるハイパーベンチレーションを取り込みました。ハイパーベンチとは、日常生活と呼吸のしかたを変えることにより身につくダイバー特有の酸素の取り込み方法です。

心臓と異なり、肺は筋肉でできているわけではないので鍛えることはできませんが、使い方を変えることは少しだけできます

また、水泳をがんばりすぎることによって上半身の筋肉がムダに鍛えられてしまいトライアスリート体系になってしまっては、ランニングのフォーム効率が落ちてしまうため、スイムはあくまでビート板を使った息継ぎなしのバタ足、ハイパーベンチトレのみに留めました。

要するに、バイクトレで酷使した筋肉そのものは水圧によるリラックス効果でほぐしつつ他の練習方法ではアプローチの困難な肺の使い方を室内プールで磨いていったのです。

その効果は、練習後の睡眠の質の向上と、翌日のバイクトレで妙実にあらわれていました。

なによりこの練習は、特に炎天下の夏。本当に楽しかった。プールにはいつも美人の利用者さんもたくさんいたからです。人間だもの。

※ハイパーベンチレーションの項目に添付したリンク先ページでも説明がありますが、この特殊な呼吸訓練は誤った練習方法でダイバー特有の脳への障害につながるリスクのあるものです。適切な指導のできる人間が身近にいない方は、安易におこなわないでください。

③ランニング主要筋の筋持久力トレーニング

いくらトライアスリート体系にならないよう気をつけると言っても約3ヶ月もバイクとスイムしかしていなければ確実に超長距離を走るための筋持久力は衰えます。

ただし、それらを鍛える方法は、必ず長時間ランニングである必要はなく、私は長年 スタビライゼーションという手法での筋力トレーニングでウルトラマラソンに必要な基礎筋力を維持してきました。

それはこのリハビリ期間中も変わりませんが、ポイントは、いかに集中して取りくめる環境が用意できるかということ。

自宅から徒歩5分のスポーツクラブAの利用価値はここにあります

私は、スポーツクラブAはストイックな井上真悟を演じにゆく場所と決めていましたので、バイクトレと筋トレに関しては、なるべく利用者さんの多い時間帯を狙ってゆき、黙々と自分のトレーニングに集中しながら、勝手に自己顕示欲を満たして内心ニヤニヤしていました。オレってすごいだろ。みたいな。

そういった環境が身近にあったからこそ、豪雨の日も猛省の日も、飽きず怠けず、集中して筋力トレーニングを継続できたと思っています。もう一度いいます。人間だもの。

④ランニング主要筋の連動性を高めるためのパワーウォーク

ここまででも一見、いろいろと理に適っているように思えるかもしれませんが、バイクとスイムと筋トレだけでは、ウルトラランナーのためのトレーニングとしてはまだ穴があります骨への負担が弱すぎ、骨密度が下がるのです。

心肺機能や筋持久力はたとえランニング以外のトレーニングで向上したとしても、骨がもろくなっていれば思わぬギャップから秋のランニング中に疲労骨折することもあり得ると思っていました。そこで定期的に取り入れたのが、夏の早朝、または夜中限定の5km or 10km 限定ウォーキングです。

このトレーニングのポイントは、いかに速く歩き切るか!?ということ。

故障中だったアキレス腱は、前足部からの着地により次の一歩でストレスのある動き方になりやすい傾向がありましたが、ウォーキングでは基本的にカカトから接地するためこのスポーツ障害に対しては負担の少ないトレーニングと言えます。

私はもともと、台湾で連覇を重ねていた246kmの山越えウルトラマラソンでは競歩の技術を意識したキロ7分ペースでのウォーキングを武器にしていましたが、この技術をより磨いておくことは、万がイチ 24時間走のレース中にアキレス腱炎が悪化して走れなくなったとしても上位戦線を諦めずに闘う手段になり得ると確信していました

その精神を教えてくれたのは、2011年、12年に共に日本代表として世界選手権を闘った元100km世界チャンピオンの中台慎二選手です。

彼もまた、学生時代に培った競歩技術をウルトラマラソンに活かし、世界の頂点へたどり着いたランナーでした。

これらのトレーニングで体幹の連動性を磨いたこと自体も、バタ足スイムとバイクトレ両方の効率アップにつながっている実感があり、そして何より、走れなかった期間の気晴らしにもなりました。

ウォーキング中にみた朝焼けや夜空は、いつだってとても清々しいものだったのです。

⑤ケアこそ一番重要だと知る!時間投資のガーミン活用法

すべてのトレーニングの効果を最大限引き出すために、一番重要だったことはこれらの時間外にどれだけ自分のカラダをケアする意識を持てているか?です。

大抵のランナーはココが最も怠けやすく、忘れやすく、そして飽きます。

私もそんな自分の性格が分かっていたので、ケアすると決めた日常生活のスキマ時間はガーミンGPSウォッチの「ヨガ」メニューを代用して、ケアに費やした時間を必ず記録するクセをつけました。

もともと大雑把でめんどくさがり、怠け者の私がなぜバイクやスイム、ウォーキング、筋トレ、ストレッチなどをモチベーション下げずに習慣化できたかの一番のポイントはココですが、

私はそれらすべての練習をガーミンGPSウォッチで記録するよう心がけ、そしてその記録はリハビリ期の理想的なトレーニングの参考資料として普段指導している数名の市民ランナーにだけはGARMIN 練習管理アプリを通して、いつでも見られてしまうよう設定しておいたのです

自分が怠けず、やるべきことを粛々とこなしていれば、それはコーチとしてセミナー生の見本として示すことにも直結します。

また、セミナー生には、自分がどんな考えでこれらのトレーニングを行なっているかのヒントになるように私のインスタグラムもフォローしてもらい、私が定期的に投稿していたインスタも考え方のヒントとして使ってもらう工夫をしました

見られている。これは背中の扉を閉め、モチベーションを下げない一つの工夫だと思っています。

※但し、ガーミンコネクトによる練習データの共有はさまざまな情報が相手に伝わってしまうため個人情報保護の観点から安易におこなうべきものではありません。私に関しては、ログを共有する対象は直接 指導させていただいている一部の市民ランナーと直に面識のある友人のみに限らせていただいています。

⑥秋からのランニング。ムリせず駆け抜けた走力向上の最短距離

これらのトレーニングパターンを使いこなしながら、常に何種類かの練習方法を選べる環境づくりができていたため「飽きる」リスクはほぼ潰せたと思っています。

そして、ようやく少しずつジョグから再開できるようになった秋のランニング。もう16年間も延々 走りつづけて、流石にちょっと飽きてきていたはずなのに、今季は秋の空気を感じながら走ることが楽しくて仕方なかったです。

アキレス腱への負担も考えれば、最終追い込み週までの1ヶ月間は少なくとも2〜3日に一回程度の頻度しかランニングを行なうことができなかったからこそ、常に走る楽しさは新鮮でした。

つなぎの疲労ぬきはアキレス腱に負担のない息継ぎなしバタ足か平泳ぎ、心肺の刺激を高めたいタイミングでのトレーニングは、アキレス腱の負担の少ないジムでのバイクトレのみというマイルールを徹底し、走ることはあくまで最終的に24時間走本番に直結するジョギングペースの精度を高めるための手段と割り切りました。

そして前回の投稿でもお伝えしたとおり、

その結果として最終的にキロ4分20秒ペースまでならジョギングと感じられるだけの状態に約2ヶ月間で仕上げ、今回のレース成績につなげることができたと思っています。

※下記は、9月中におこなったランニングのみのデータです。おおむね心拍ゾーン2~3の「おしゃべりジョグペース」を超えない強度でアキレス腱の負担を悪化させない範囲の走り方を心がけました。

今回の投稿では、主にこの半年間で私が効果のしっかり感じられたトレーニンング方法を紹介しましたが、スポーツクラブ設備を活用し、この期間中に試行錯誤したランナーのための練習パターンはまだまだありますので、その紹介は別の機会に改めたいと思います。

次回の投稿では、身体能力を最大限に活かしてレース結果につなげるには、そもそもウルトラマラソン特有の様々なトラブルをどう潰してゆくべきか?の、考え方と、私が16年間の競技経験のなかで身に着けた具体的なノウハウを紹介します。


井上真悟プロフィール 1980年東京生まれ

26歳時、父の他界をきっかけに挑んだ通称「世界一過酷なウルトラマラソン」サハラ砂漠マラソンにて2年連続日本人1位となる。その後、ランニングコーチとして児童を対象にしたコーチング経験を積む傍ら、日本全国の児童養護施設へ走って訪れる活動を展開(2007~)出逢った全ての子供たちを喜ばせたいと思い、当時「20代では結果が出せない」と言われていた24時間走に絞った競技活動に打ち込む。2010年、伝説のウルトラランナーと呼ばれていたスコット・ジュレクとのレースを制し、20代初の同競技・世界タイトルを獲得。現在は、「2020年・金栗四三のアメリカ大陸5000km横断駅伝」の実現をめざし、精力的に活動中。

近日中・実施予定セミナー

12月1日(土)大阪開催GARMINランニングコーチ井上真悟の42.195㎞攻略クリニック

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